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1)メダカにおける鰭形態の雌雄差と配偶時の機能

 ​メダカ(Oryzias latipes, Oryzias sakaizumii)は日本国内では青森から沖縄まで分布する体長4cmほどの淡水魚で、オスはメスに比べて長い背鰭と尻鰭を持ちます。雌雄で異なる鰭の形態に生態上、どのような機能があるか調べるため、配偶行動に着目しました。メダカは繁殖の際にペアを形成して、オスは背鰭と尻鰭を使ってメスを抱えて放卵放精します。オスの長い鰭はこれまで受精率を上げる機能があると考えられていましたが(Koseki 2000)、飼育下での行動観察実験の結果、長い鰭を持つオスほどメスから拒否されにくく、メスは鰭の長さを指標にオスを選好していることが明らかになりました。メダカの鰭の進化に、メスによる選好性が寄与している可能性を初めて示しました。

2)鰭の長さの集団間変異に関わる量的遺伝子座(QTL)の探索

 メダカの鰭には性的二型があるだけでなく、野生集団間ではオスの鰭の長さの程度に変異が存在します(Kawajiri et al. 2009)。こうした性的二型の変異もたらす遺伝的基盤を明らかにするため、鰭の長さが異なる青森と沖縄という二つの野生集団から採集した個体を飼育下で掛け合わせ、得られた孫を用いてQTL解析を行いました。その結果、常染色体上の候補領域を絞り込むことができました。この研究は国立遺伝学研究所の北野潤教授らとの共同研究で、私は実験個体の飼育や表現型の定量化に取り組みました。

3)日本のメダカ野生集団間に見られる配偶行動の適応進化

 野外の集団間に見られるオスの鰭の長さの変異は、それぞれの集団における配偶者を獲得するためのオス個体間の競争の強さの違いを反映している可能性があります。この仮説を検証するため、オスの競争性と求愛の積極性、およびメスの配偶者選好性を集団間で比較しました。共通環境下で観察した結果、鰭の長い集団 (敦賀と沖縄) のオスは、鰭の短い集団 (青森) のオスに比べ、より頻繁に闘争と求愛を行いました。加えて、オスがより派手な集団のメスはオスを容易に受け入れず、特に鰭の短い集団のオスを配偶相手としたとき頻繁に拒否しました。こうしたオスの形態や行動とメスの選好性との関連は、性淘汰を通じた共進化を反映したものだと考えられます。

引用文献

 

Koseki, Y., Takata, K. & Maekawa, K. 2000 The role of the anal fin in fertilization success in male medaka, Oryzias latipes. Fish. Sci. 66, 633–635. 

Kawajiri, M., Kokita, T. & Yamahira, K. 2009 Heterochronic differences in fin development between latitudinal populations of the medaka Oryzias latipes (Actinopterygii: Adrianichthyidae). Biol. J. Linn. Soc. 97, 571–580. 

これまでの研究内容の紹介

図2.メダカ属の一種における鰭の骨形態の雌雄差
(上:オス、下:メス)

図1.婚姻色を呈したOryzias latipes (沖縄島)のオス

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